第2回 脳梗塞・脳出血の後遺症で障害者手帳は取れる?



📖 【全3回】脳梗塞・脳出血の身体障害者手帳ガイド





前回は、「身体障害者手帳って何?」という基本と、利用できる主な制度をご紹介しました。
では、脳梗塞・脳出血の後遺症がある場合、どのくらいの状態で手帳の対象になるのでしょうか?


「片麻痺がある」「杖を使えば歩ける」「麻痺した手がうまく使えない」
後遺症の状態は一人ひとり違います。
今回は、脳梗塞・脳出血後の身体障害者手帳が、どのような考え方で認定されるのかをわかりやすくご紹介します。




【1】脳梗塞・脳出血になったら、身体障害者手帳を取得できますか?


脳梗塞・脳出血になったというだけで、身体障害者手帳が交付されるわけではありません。ポイントは、脳梗塞・脳出血によって、どのような機能障害が残っているかです。


たとえば、



  • 片麻痺による手足の機能障害

  • 歩行などにかかわる下肢の機能障害

  • 手や腕など上肢の機能障害

  • 失語症・構音障害などの言語機能障害


などが、一定の基準に該当すると対象になる場合があります。


★注意点★
「脳梗塞」「脳出血」という病名ではなく、後遺症として残った機能障害の程度をみて認定されます。

【2】片麻痺があります。身体障害者手帳の対象になりますか?


対象になる場合があります。脳梗塞・脳出血による片麻痺では、基本的に上肢と下肢をそれぞれ評価します。


たとえば右片麻痺なら、



  • 右腕、右手がどのくらい動くか

  • 右脚がどのくらい動くか

  • 筋力はどの程度あるか

  • 関節をどのくらい動かせるか(可動域)

  • 麻痺や感覚障害が日常生活にどのくらい影響しているか


などを確認します。


麻痺の程度をみるために、ブルンストロームステージ(BRS)(※)などの評価が参考にされることもあります。


※ブルンストロームステージ(BRS):脳卒中後の手足の麻痺の回復段階を評価する方法


ただし、「BRSが○だから身体障害者手帳○級」というように、ひとつの数値だけで等級が決まるわけではありません。


身体障害者手帳の申請には、医師が作成する専用の「診断書・意見書」が必要です。医師は、障害の状態とともに、障害等級についての意見を記載します。その診断書・意見書などをもとに自治体が審査し、最終的な障害等級を認定します。


なお、「診断書・意見書」は、どの医師でも作成できるわけではありません。詳しくは第3回「身体障害者手帳を申請したい!相談から受け取りまで」でご紹介します。


★注意点★
医師が記載した障害等級についての意見と、最終的に自治体が認定する等級が異なる場合もあります。

【3】杖や下肢装具を使えば歩けます。それでも対象になることがありますか?


あります。
「歩ける=身体障害者手帳の対象にならない」ではありません。下肢の障害は、歩ける距離だけで決まるものではありません。麻痺の程度や筋力、関節の動き、感覚障害などを確認します。


また、日常生活での歩行や立ち上がりなどに、どの程度の支障があるかも参考にされます。


肢体不自由の機能を評価するときは、原則として装具などを装着していない状態で判断します。そのため、「短下肢装具と杖を使えば歩けるから、対象外」と自己判断する必要はありません。


杖や装具を使っている方も、まずは主治医や市区町村の障害福祉担当窓口などに相談してみましょう。


【4】麻痺した手がほとんど使えません。上肢の障害として認定されますか?


一定の基準に該当すれば、上肢の機能障害として認定される場合があります。
上肢は、単に「腕が上まで上がるか」だけをみるわけではありません。


肩・肘・手首・手指などについて、



  • 麻痺の程度

  • 筋力

  • 関節の動き(可動域)

  • 手指の実用性

  • 日常生活でどのくらい使えるか


などを確認します。


たとえば、手指を動かすことはできても、物をつかむ、つまむなどの動作が難しい場合もあります。そのような状態も含めて、機能障害の程度が判断されます。


★注意点★
上肢の障害は、「動く・動かない」だけで判断されるものではありません。手や腕を少し動かすことができても、実際の日常生活でどの程度使えるかも含めて評価されます。
そのため、「少し動くから身体障害者手帳の対象にはならない」と自己判断する必要はありません。

【5】身体障害者手帳には何級がありますか? 片麻痺ではどう決まりますか?


身体障害者手帳の交付対象となる等級は、1級から6級です。数字が小さいほど、障害の程度が重くなります。


等級表には7級もありますが、7級の障害がひとつだけの場合は、手帳は交付されません。


片麻痺の場合は、上肢と下肢の障害をそれぞれ評価します。そのうえで、障害の組み合わせなどから、身体障害者手帳としての等級が判断されます。


★注意点★
「上肢の障害が○級、下肢の障害が○級だから、足して○級」というように、それぞれの障害等級を単純に足して、身体障害者手帳の等級が決まるわけではありません。
最終的な認定は、身体障害者手帳用の診断書・意見書などをもとに、自治体が行います。

【6】失語症も身体障害者手帳の対象になりますか?


対象になる場合があります。
脳梗塞や脳出血による失語症は、身体障害者手帳の「音声・言語機能障害」として認定されることがあります。
言葉をはっきり発音しにくくなる「構音障害」も対象になる場合があります。


音声・言語機能障害では、



  • 言葉を理解する力

  • 言葉で伝える力

  • 会話による意思疎通がどの程度できるか


などを確認します。


失語症や構音障害があるというだけで、必ず手帳が交付されるわけではありません。障害の程度が認定基準に該当する必要があります。


また、脳血管障害によって咀嚼(そしゃく)・嚥下機能に重い障害が残った場合も、身体障害者手帳の対象になることがあります。


【7】高次脳機能障害も、身体障害者手帳で認定されますか?


脳梗塞・脳出血のあとには、片麻痺とともに、高次脳機能障害が残ることがあります。


高次脳機能障害では、脳の損傷によって、



  • 記憶障害:新しいことを覚えにくい、少し前のことを忘れてしまう

  • 注意障害:集中が続かない、複数のことを同時に行うことが難しい

  • 遂行機能障害:物事の順序を考えたり、計画を立てて行動したりすることが難しい

  • 社会的行動障害:感情や行動のコントロールが難しくなる


などの症状がみられることがあります。


高次脳機能障害は、身体障害者手帳の「肢体不自由」の等級に、そのまま加えて評価されるものではありません。症状によって日常生活や社会生活に支障がある場合には「精神障害者保健福祉手帳」の対象になることがあります。


「精神障害者保健福祉手帳」と聞くと、高次脳機能障害とは別のもののように感じるかもしれません。制度上、高次脳機能障害は、脳の病気やけがによって生じる「器質性精神障害」に含まれ、精神障害者保健福祉手帳の対象となる場合があります。


たとえば、



  • 片麻痺 → 身体障害者手帳の「肢体不自由」

  • 失語症 → 身体障害者手帳の「音声・言語機能障害」

  • 高次脳機能障害 → 状態によって「精神障害者保健福祉手帳」


というように、同じ脳梗塞・脳出血による後遺症でも、対象となる手帳や制度が異なることがあります。


また、片麻痺と高次脳機能障害の両方がある場合には、身体障害者手帳とは別に、高次脳機能障害について精神障害者保健福祉手帳の対象となることもあります。それぞれ別の基準で審査されます。


★注意点★
高次脳機能障害は、外見からは気づかれにくいことがあります。「以前はできていた仕事の段取りができない」「忘れ物が増えた」「集中が続かない」など、退院して生活や仕事に戻ってから困りごとがはっきりする場合もあります。
気になる症状がある場合は、主治医やリハビリテーション科、高次脳機能障害の相談支援窓口などに相談してみましょう。

【8】「脳梗塞の発症から6か月経たないと、障害者手帳は申請できない」と聞きました。本当ですか?


「必ず6か月間待たなければならない」という決まりはありません。


脳梗塞・脳出血などの脳血管障害では、発症後のリハビリによって身体機能が変化することがあります。そのため、身体障害者手帳の認定には、どの程度の障害が残っているかを判断できる時期まで経過を見る必要があります。


一般的には、「6か月間(半年)程度」がひとつの目安になることがあります。


ただし、発症から6か月未満でも、医師が現在の障害の状態を身体障害者手帳の認定基準に照らして判断できる段階にあると診断し、手帳申請用の「診断書・意見書」を作成できる場合には申請できることがあります。


厚生労働省は、脳血管障害について、認定に必要な観察期間は一律に定められるものではなく、障害の部位や症状の経過などに応じて個別に判断するとしています。障害の状態によっては、発症後3か月程度など、比較的早い時期に認定される場合もあります。


一方、まだ身体機能の変化が大きく、今後の回復の程度を判断しにくい場合には、もう少し経過を見ることがあります。


また、比較的早い時期に認定された場合には、その後の身体の状態を確認するため、一定期間後に「再認定」となることがあります。


実際にいつ申請するかは、現在の障害の状態や回復経過をみながら、主治医や市区町村の障害福祉担当窓口などに相談しましょう。


★注意点★
身体障害者手帳の申請時期は、「発症から何か月経ったか」だけで決まるものではありません。申請には、医師が作成する身体障害者手帳用の「診断書・意見書」が必要です。この診断書は、どの医師でも作成できるわけではありません。
詳しくは、第3回「身体障害者手帳を申請したい!相談から受け取りまで」でご紹介します。

【9】障害者手帳を取得すると、「もうこれ以上回復しない」と認めることになりますか?


そういう意味ではありません。
身体障害者手帳では、原則として「永続する」と考えられる障害が認定の対象です。ただし、ここでいう「永続する」は、今後まったく変化しない、もう改善しない、という意味ではありません。


脳卒中後の運動機能障害に対しては、改善を目指してリハビリテーションを行うことが勧められています。


もちろん、改善の程度やスピードには個人差があります。しかし、「手帳を取得したから、もうリハビリをしても変わらない」と考える必要はありません。


身体障害者手帳を取得することで、補装具、交通機関の割引、税金の控除、福祉サービスなど、今の生活を支える制度を利用できる場合があります。そうした制度を利用することと、リハビリで身体機能や生活の改善を目指すことは、別のことです。


また、今後の改善の可能性が残っている場合でも、早い時期から福祉制度を利用する必要があると判断されれば、一定期間後の「再認定」を条件として手帳が交付される場合があります。


★POINT★
身体障害者手帳は、「これ以上よくならない」と決めるものではありません。今の身体の状態に応じて必要な制度を利用しながら、リハビリでは、その先の身体機能や生活の改善を目指していくことができます。




まとめ


脳梗塞・脳出血の後遺症は、その程度や生活への影響が一人ひとり違います。「自分は身体障害者手帳の対象になるだろうか」と思っても、等級を自分で判断するのは難しいものです。
実際に身体障害者手帳を申請したいときは、どこへ相談すればよいのか、手続きの流れを解説します。


▼ 全3回の記事一覧






【主な参考資料】
・厚生労働省「身体障害者手帳」
・厚生労働省「身体障害者福祉法第15条に定める指定医師向け 医師の診断書作成マニュアル」
・厚生労働省「身体障害認定基準等の取扱いに関する疑義について」
・厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準の運用に当たって留意すべき事項について」


※身体障害者手帳の認定は、障害の状態や経過などをもとに個別に判断されます。実際の申請については、主治医やお住まいの自治体の障害福祉担当窓口などにご相談ください。


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