【リハセンナレッジ】脳卒中後のセルフケア

今回の回答者:脳梗塞リハビリセンター 鍼灸師 森田氏




脳梗塞リハビリセンターで「60日間改善リハビリ」のご利用者様にお受けいただいている「鍼灸」施術では、脳卒中罹患後の生活の質の低下につながる睡眠障害、排泄障害、痛みやしびれなどの辛い症状を緩和・改善するために、東洋医学的な視点から「内臓・自律神経」に対するアプローチを積極的に行っています。


東洋医学では 「未病」 という概念を大切にしています。血液検査で正常値であれば問題ないと思われている方も多いようですが、数値に出ていなくても内臓が疲れて働きに影響が出ている場合があります。自律神経の乱れ、不眠、冷え、食欲不振などのさまざまな小さなサインを見逃してしまうことが将来の大きな病気の発症・再発リスクを高めることにもつながりかねません。


脳梗塞リハビリセンターでの鍼灸と合わせて、ご利用者様ご自身(とご家族様)による日常の生活習慣におけるセルフケア(養生)を行ない、心と身体のバランスを整え、脳卒中後遺症の症状改善を目指していきましょう。


ご利用者様がお一人で、ご家族とともにできる、東洋医学の思想に基づいた「脳卒中後遺症の症状を緩和するセルフケア」と「生活習慣を見直し、リハビリをすすめやすい体をつくるためのセルフケア」 を脳梗塞リハビリセンターの鍼灸師が解説いたします。




■症状別 自宅でできるセルフケア


◆1: 深くぐっすりと眠りたい


① 朝起きてカーテンを開け、間接的にでも太陽の光を浴びる


朝7~8時頃に起床して、忙しければ少しの時間でも良いので朝日を身体に浴びましょう。体内時計がリセットされ、14~16時間後に睡眠ホルモンが分泌される仕組みにより、起床時の習慣を変えることで睡眠の質が改善します。寝つきが悪い人は夜早く就寝しようと頑張るだけではなく、起床時の習慣を変えることをおすすめします。


 


② 就寝前にへそを温める


へその部分をカイロや温めたペットボトルで温めると睡眠の質が向上します。睡眠中にお腹を温めることのできるカイロ、湯たんぽなどを使用してもよいでしょう。カイロ、湯たんぽなどを使用する際は「低温やけど」をしないように注意してください。


Image2


③ 夕方のトイレをできるだけ我慢しない


深部体温は夕方にピークを迎え、そこから下がることで眠くなります。尿や汗の体液は、体内の余計な熱を出す働きがありますので、夕方にトイレ(排尿)を我慢してしまうと睡眠の質が低下してしまう恐れがあります。


Image3 (3)


 


④ 就寝1時間前にスマートフォンやパソコンを見ない


画面から出るブルーライトの光は睡眠ホルモンと言われるメラトニンの分泌を抑制してしまうので、入眠直前に見ていると寝つきが悪くなってしまします。
ついスマートフォンを見る癖がついてしまっている人が多いかと思いますが、睡眠をしっかりとって身体と脳を休ませるために就寝前は画面を見ないように心がけましょう。




◆2: 目が疲れやすい


① 後頭部と首を冷やさない・温める


目は後頭部の筋肉や脳の働き(後頭葉)との関係が深いため、後頭部から首を冷やさない・温めることが大切です。お風呂上がりにドライヤーで髪を乾かす際に後頭部を乾かしきれていない人が多くみられます。後頭部の頭皮と髪、首の後ろが濡れている状態は身体が冷えやすく、湿気から筋肉が硬くなる場合もあるため、入浴後や洗髪後は頭全体をしっかりと乾かすようにしましょう。


後頭部の筋肉が硬くなることは眼精疲労だけでなく、不眠や頭痛、首・肩こりなどの原因にもなります。


Image4 (4)


② スマートフォンやパソコンの画面を見るときはブルーライトカットメガネをする


スマートフォンやパソコンなどの画面からはブルーライトが出ており、この光は目の疲れやすさや自律神経の乱れに影響があります。セルフケアや脳梗塞リハビリセンターの鍼灸施術で自律神経を整えていくことが大切です。




◆3: 手足の痛み、しびれを緩和したい


① 症状のあるところを冷やさない


日々のセルフケアで大切なのは「痛みやしびれのある部位とその周辺を冷やさないこと」です。特に足首や手首は冷やさないよう心がけるとともに、温めると目に良い影響があります。


おすすめは 「アンクルウォーマー」や「リストウォーマー」の着用 です。足首や手首につけるようにしてください。


Image5 (2)


「寝る時に足が冷えて辛いから」と、就寝時に靴下を履く習慣がある方がいらっしゃるかもしれませんが、睡眠中は足の裏から汗をかいて体温調整をすることで睡眠の質が向上するため足裏は靴下で覆わないほうがよいかもしれません。就寝時もこのようなアンクルウォーマーをつけると冷えの予防になります。


 


② セルフ灸をする


手足のしびれ、痛みを緩和するためのセルフケアとしておすすめしたいのがセルフ灸です。 脳梗塞リハビリセンターの施設リハビリで鍼灸をご利用いただいた際に、ご利用者様の体質や状態からその人に合ったツボの位置やセルフ灸の方法をご指導させていただいております。セルフ灸の製品の選び方は鍼灸師にご相談することをおすすめします。


Image6




◆4: むくみを取りたい


① 身体を冷やさない


むくみが出やすい手足末端の水分のほとんどは血流と一緒に体幹へ戻ります。むくみはリンパ液の滞りと聞くかと思いますが、リンパから水分が戻る割合は約10%でほとんどが血液と一緒に体幹へ戻るのです。血行を悪くさせないために出来るだけ冷やさないようにしてください。


② グーパーを1分間繰り返す


手の指を握ったり開いたりする「グーパー」を繰り返すことで血管を広げる一酸化窒素(NO)が放出されます。「① 体を冷やさない」で説明したとおり、むくみの改善には血流が大事なため、このような運動が効果的です。血圧が高い時にグーパーをすることで一酸化窒素の作用から直ぐに落ちつきます。


血流は全身繋がっているため、手指に麻痺がある場合でも、グーパーの動作は無理のない範囲でやってみることをおすすめします。


③湯船に浸かる


41度以下の水温の湯船に10~15分程度浸かるようにしましょう。 血流改善と水圧から手足末端の余計な水分が体幹に戻りやすくなります。途中、足だけ浸かる時間をつくっても結構です。


自律神経は交感神経と副交感神経からなり、一般的に入浴でリラックスすると後者が優位となって血管拡張により血流の改善が期待できますが、高い温度だと交感神経が優位となって血管が収縮してしまい、その目安が42度とされています。


42度以上の水温はかえって血管を細くしてしまうため、42度以上の水温の湯船に浸かることは避けましょう。




◆5: 冷え(血行障害)を改善したい


① 日頃の姿勢を正す意識をもつ


お腹のインナーマッスルや肺の呼吸量が落ちると血流が悪くなり冷えが生じます。このインナーマッスルが働きづらいことが脳卒中後遺症の大きな特徴の一つですので、できる範囲で「背筋を伸ばして骨盤の上に頭を乗せる」「健側のお尻ばかりに体重が乗らないようにする」ことを意識してください。


脳梗塞リハビリセンターでは、正しい姿勢がとれない、体重の乗せ方がわからない/うまくできない方に、担当の理学療法士・作業療法士・トレーナーがわかりやすく指導しますので、ぜひご相談ください。


また、スマートフォンやパソコンの操作などで頭が前方に10度出ると首肩には余計に7、8キロの負担がかかるといわれています。首肩が硬くなってしまうと自律神経が乱れて緊張や興奮の作用が働き過ぎてしまいます。同じ姿勢をとったままのスマートフォン、パソコン操作は長時間続けず、時々休憩をとるよう心がけましょう。


Image7 (2)


② 下腹部を温める


腸と足の血流は密接に関係していますので、腸がある下腹部を温めることは足の血流改善につながります。また、腸と足の血流は子宮の血流にも影響するため、女性の生理トラブルの改善にも役立ちます。


このほか、前出の ◆3: 手足の痛み、しびれを緩和したい でご紹介した


●冷やさない、温める
●セルフ灸をする


を、症状緩和のためのセルフケアに取り入れるとよいでしょう。




◆6: 胃腸の調子が悪い、整えたい


① 腹八分目を意識する


夕食を食べ過ぎてしまうと、睡眠中も胃腸の消化・吸収の働きが活発になってしまいます。本来睡眠中は胃腸が空っぽの状態で汚れを綺麗にする大掃除の機能が働きます。これが出来なくなることでも胃腸の働きが乱れ、腸内に汚れが溜まり、皮膚トラブルなどの影響が出てしまいます。


② 足三里のセルフ灸をする


足三里は胃腸に効く代表的なツボ の一つです。ドラッグストアや販売サイトなどで入手できる「灸」や「家庭用貼付型接触粒」をお持ちの方はセルフ灸をしてみてください。お持ちでない方は 足三里を指先でゆっくりと押していき、痛気持ちいい感覚やジーンと響くところで圧を5秒キープすることを数回繰り返してください。 その時にはなるべく正しい姿勢でゆっくりと呼吸をしながらできるとさらに効果的です。


③ 暴飲暴食をしない


暴飲暴食をすることは胃腸の調子を直接的に傷めてしまう要因です。できるだけ噛む回数を増やしましょう。


脳卒中の後遺症による運動量の低下とストレスから体重が増えやすくなることがありますが、噛む回数を増やしてゆっくり食べることで満腹中枢を働かせ、食事を必要な量に抑えられます。


④ 歌を歌う


東洋医学では歌を歌うことは胃に良いと言われています。また、お腹から声を出すことはインナーマッスルのトレーニングにもなるためおすすめです。




◆7: 脳梗塞になってから便秘になってしまった


お腹を「の」の字にさする


腸の動きを助けるためにへそを中心に「の」の字にさすりましょう。このときは手を温めてゆっくりと呼吸をしながら 行ってください。




◆8: 頻尿を改善したい


15~30分間程度の昼寝をする or 横になって目をつぶる


内臓の働きは自律神経によってコントロールされており、膀胱も例外ではありません。自律神経が乱れていると、少量の尿しか溜まっていなくても尿意をもよおし、トイレに何度も行くようになってしまいます。その時はトイレで出そうとしても少量しか出ないでしょう。自律神経を整えて膀胱の働きをケアすることが大切です。


内臓は横になることで休まります。昼寝の習慣がない人は、横になって目をつぶるだけでも効果的なので、自律神経を整えるセルフケアの中で一番おすすめのメニューです。




★再発のリスクをさげるためのセルフケア


① 長時間の昼寝を避ける


「◆8: 頻尿を改善したい」 の解説では、“短時間の昼寝”をお勧めしましたが、1時間以上の昼寝は止めましょう。
なぜなら、長時間の昼寝は脳梗塞や心筋梗塞、アルツハイマーの発症リスクを上げてしまうという調査結果があるからです。


2020年8月に広州医科大学が、昼寝と心血管疾患および全死亡リスクとの関連を検討した研究論文を総合的に解析した結果を発表したところ、昼寝を1時間以上する習慣のある人は、昼寝の習慣のない人に比べて心血管疾患の発症リスクが34%、全死亡リスクが30%も高い結果になりました。


ナイキやグーグルのような世界的に有名な企業で、社員に短時間の昼寝の時間を設けるほどになってきています。


昼寝で長時間寝てしまう人は、15分、30分後に目覚められるようにアラームをかけて昼寝をするようにするとよいでしょう。


 


② 一日の中で「陽」(交感神経:活動・興奮作用)と「陰」(副交感神経:鎮静・リラックス)のバランスを見直す


現代人は脳や身体の働く時間(「陽」の時間)が多く、リラックスする時間(「陰」の時間)が少ないことが特徴で、自律神経が乱れる大きな原因となっています。


11


働きモードの交感神経が高ぶると、休もうとしてもリラックスモードの副交感神経が働きづらくなります。交感神経は血管を細くする作用があり、血管が細いとつまりやすく破れやすくなってしまい脳血管疾患の再発の原因になりかねないので、一日の生活習慣を見直す必要があります。


いまや現代人の日常生活に欠かせないスマートフォンですが、本来はリラックスする時間である食事中やお風呂の時間までスマートフォンをいじると、ブルーライトの影響から脳は働きモードになり交感神経が高ぶってリラックスできないというように、自律神経の乱れにつながります。


脳や体が働いている時間が多くなりすぎないように気をつけ、心身がリラックスできる時間をできるだけ多くつくり、セルフケアを取り入れて再発のリスクを下げていきましょう。




■解説者プロフィール :


脳梗塞リハビリセンター 大宮 鍼灸師


森田遼介


.jpg


学歴:2012年 呉竹医療専門学校本科卒業


国家資格:2012年 はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師 免許取得


職歴:
2012年 はりきゅう小田原治療室、金子マッサージ 入社
鍼灸流派の一つである「経絡治療」で全国的に有名な先生のもと、昼間は勉強をさせていただきながら夜間は箱根の旅館を回りマッサージで生計を立てる。


2014年 株式会社メディカルハンド 入社
業界会社セリアジョブ代表取締役から "東京でマッサージNo.1" という紹介で入社。鍼灸・マッサージ共に指名No.1を3年間維持する。


2017年 ~現在 株式会社ワイズ入社後、脳梗塞リハビリセンター大宮に勤務
研修指導や東京パラリンピック出場を目指す反町公紀選手のボディケア担当をはじめ、多くのご利用者さまに鍼灸+リハビリの組み合わせで変化を感じていただけるよう邁進中。


 


監修協力:


■脳梗塞リハビリセンター 教育担当 鍼灸師 


石上邦男


学歴:
1994年 早稲田大学教育学部英語英文科卒業 
2009年 花田学園日本鍼灸理療専門学校卒業


国家資格:
2009年 はり師・きゅう師 免許取得


職歴:
2009年 横浜市青葉区にはりきゅう治療院sootheを開設


来院とデイサービスなどへの出張を併行して、脳卒中後遺症と様々な随伴症状の改善に従事。


2015年 脳梗塞リハビリセンター(株式会社ワイズ)入社


脳梗塞リハビリセンター研修センターにて鍼灸技術研修を担当。
利用者さまの快復に少しでも益する鍼灸師の育成とはり・きゅうの普及に格闘中。


脳梗塞リハビリセンター 鍼灸部門統括 鍼灸師 


宮澤勇希


学歴:
2016年 日本工学院八王子専門学校 医療カレッジ鍼灸科 卒業


国家資格:
2016年 はり師・きゅう師 免許取得


職歴:
2016年〜2019年 楊中医鍼灸院 就職


中医学を用いて皮膚疾患、婦人科疾患、精神疾患など幅広い疾患の治療を専門して体質改善を目指し治療、臨床経験を積む。研修生への研修講師を務める。
心理カウンセラー資格 取得


2019年〜現在  株式会社ワイズ入社後、脳梗塞リハビリセンター立川店勤


2021年 鍼灸部門統括 就任




<ご質問やご意見投稿はこちら>


【リハセンナレッジ】ご質問・ご意見投稿フォーム




【リハセンナレッジ】目次ページはこちら

カウンセリング付

脳梗塞リハビリセンター
特別体験プログラム

5,500円(税込)