脳卒中者(片麻痺がある場合)のシーティング

(お話:山崎泰広さん / インタビュアー:佐野純平)


インタビュー【「シーティング」で車いす生活に劇的な変化が起きる!】でお話うかがったシーティングスペシャリストの山崎さんが、脳損傷者(片麻痺者)のシーティングについて、まとめてくださったので掲載いたします。


 


◆脳卒中・脳外傷などの脳損傷者(片麻痺などの後遺症がある方)は特に、機能回復のリハビリを行っていく中で、歩くことが最大の目的であることがおのずと多くなります。その結果、歩行可能な方には車椅子が軽視されてしまうことが少なくありません。しかし無理に歩くと転倒の危険性もあります。


体に合わせた車いすと適切なシーティングの活用で姿勢がよくなり、転倒・転落の危険性が解消されるので、まだバランスが悪い早期からの離床も可能になります。シーティングでリハビリ後によい姿勢を保つことでリハビリの効果を低下させずに次のリハビリに繋げることができます。欧米ではシーティングは「リハビリとリハビリの間を繋ぐもの」と考えられています。その結果、リハビリ効果の向上や期間の短縮が可能になります。そして活動範囲が広がり、自立支援や介護軽減、ひいては「QOLの向上」に繋がることは、ぜひ覚えておいていただきたいです。


 


 ⇨《インタビュアー佐野コメント》僕も、リハビリを通じて、歩行改善などにも努める傍ら、車いすをフル活用して、仕事や活動の幅を広げているので本当に付き合い方次第だと思います。


 


◆脳卒中・脳外傷などの脳損傷者に見られる車椅子での姿勢は以下が挙げられます。



  • 片側への傾き・姿勢の崩れ

  • ずり落ち

  • 頭が前方に落ちる・前倒れ

  • 回旋(特に足漕ぎの方)


また、その姿勢が崩れる原因は、以下によるものであることが多いです。



  • 衰えた/失われた筋力(左右不均等の筋力)

  • 車椅子やクッションによる不十分なサポート

  • 歩行可能なことで低機能の車椅子しか支給されないことが多い

  • 歩行可能なことで補装具費の座位保持装置が必要であるとの判定を得られないことが多い


 


 ⇨《インタビュアー佐野コメント》確かに、車いすを最初に選ぶ時点で、自分の生活スタイルや身体の状態にあった車いす選択の知識は乏しかったかもしれないと思いました。ましてやシーティングについても知らなかったので…選択するための知識を当事者が突然の病気でもつことは難しいので、医療・介護業界の常識となってほしいと願います。


 


◆インタビューでも伝えたとおり、日本の車いすの問題は、「車いすが快適な場所だとは考えられず、移動や運搬の道具として使用されている」ことです。そのため、以下のようなことが起きています。



  • 運搬用の車椅子を使用している(移動時だけ使用)

  • 健常者の使用する「椅子」を使っている(障害への対応が必要)

  • 体に合っていない(既製品を使用している)

  • 悪い姿勢が二次障害の原因となっていることを理解していない

  • 悪い姿勢が残存機能の十分な発揮を妨げていることを理解していない

  • 良い姿勢によって機能性が向上することを理解していない


正しいシーティングについて知り、その考え方を広めて当事者、家族、関係者すべてが同じ考えを共有することで、日本の車いすに対する考え方が変わっていってほしいと考えています。


 


◆シーティングによる対応



  • シーティングで最も大切と考えられている骨盤は座位姿勢の土台である。

  • まずは崩れている骨盤の傾きを改善し、適切な姿勢の土台を提供する。

  • その上で、必要であれば上半身や下肢の姿勢を整える。

  • 骨盤の傾きには後傾、前傾、片側への傾き、回旋があり、重複して生じている場合もあるので現状を見極め対応する。


 


【脳損傷者(片半身まひ者)がシーティングをおこなう意義】


①体幹サポートの活用とリハビリへの効用


両側にサポートのある体幹サポートを使用することで、片麻痺者は正中線が分かるようになり、リハビリに役立ちます。


 


一体型体幹サポート


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ラテラルサポートを追加したバックサポート


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②歩行可能な脳卒中患者におけるシーティングの必要性



  • 歩行時は残存機能の左右差によって姿勢が傾きがちである

  • 座る時、標準型の車椅子や一般的な椅子に座ると傾いた姿勢は悪化する



シーティングを活用して、傾きを改善できる車椅子に座ることでまっすぐな姿勢に戻ります



  • 姿勢がリセットされる

  • 悪い座位姿勢で悪化し続けるのではなく、毎回姿勢をリセットすることで姿勢の悪化を防止する

  • その後の立位姿勢や歩行にもプラスになる


 


③脳卒中患者の早期からの離床とリハビリ (実際に複数の病院で実証済み)



  • シーティングを考慮した車椅子であれば、発症後まだ不安定な状態でも離床して車椅子で過ごしたり食事をとったりすることが可能

  • 必要に応じて調整することで安定性を向上して転倒・転落を防止することができる

  • 車椅子上での安定した姿勢によって、早期からリハビリを開始することができる

  • リハビリ後に調整することでリハビリの効果を維持でき、次のリハビリに繋げる

  • 結果として、リハビリの早期開始、効果的なリハビリ、リハビリ期間の短縮が可能となる


 


 ⇨《インタビュアー佐野コメント》シーティングの体験で、山崎さんに、現在使用している車いすのサポートが自身にあっていないことを指摘いただきました。(私の場合は、サポートが前面に張り出しているので、座面を短くしか使えておらず結果として太ももの裏が宙に浮いた状態になっていました。もう少しサポートが平らな方が私には合うようです)片麻痺だからでてくる姿勢への影響をシーティングが緩和できる可能性を秘めていること、また、歩行ができてもうまく付き合うことでさらにQOL向上できることなど、思考を柔軟にしておきたいと感じました。


 


シーティング記事(前編):「シーティング」で車いす生活に劇的な変化が起きる! はこちら


 




◆シーティングについての相談・講演依頼窓口


株式会社アクセスプランニング チーフコンサルタント シーティングスペシャリスト


山崎 泰広


メール: yamazaki@accessplan.co.jp


お使いの車椅子を提供している会社と組んで行うケースなどもあります。まずはご相談ください。


【費用の目安】個人コンサルティング費用 税込5,500円 + 出張費用 税込5,500円~(都内各所の場合。要ご相談)




◆プロフィール 


山崎 泰広(やまざき やすひろ)


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株式会社アクセスプランニング シーティング・スペシャリスト/チーフコンサルタント


一般財団法人 日本車椅子シーティング財団 理事 / 「シーティングで自立支援と介護威厳を実現する議員連盟」アドバイザー / 一般社団法人 脳損傷者ケアリングコミュニティ学会 副理事長 / 日本リハビリテーションスポーツ学会 相談役 / 一般社団法人 日本パラ水泳連盟 常任理事 / (元)順天堂大学医学部整形外科学講座 非常勤講師(8年) / ユニバーサルデザイン 2020 評価会議 有識者委員 等の省庁・自治体の委員を歴任


 


1960年東京生まれ。1979年留学中の米国での事故により脊髄損傷、下半身麻痺。米国でリハビリ後、高校に復学。85年ボストンカレッジ経営学部卒業。1985年帰国当時の遅れていた日本の福祉機器を変えようと、障害者の自立を支援する優れた機器を世界中から提供する会社を設立。教育活動によりモジュラー型車いす、褥瘡予防クッション等の普及に努める。その製品と活動は日本の車いすや支援機器が変わる転機となった。93年、褥瘡治療で入院していた米国の病院で「車いすシーティング」と出会い、その優れた理論と技術を日本に伝えるために米国のPTと全国でセミナーを開催。日本のシーティングのパイオニアのひとり。毎年欧米の講習会で車いすとシーティングの最新情報と技術を学び、障害児から高齢者まですべての車いす使用者の悪い姿勢による二次障害防止と機能性向上、自立支援と介護軽減に努めている。日本全国で開催しているセミナーは28年目を迎え、多くのリハビリ/医療/介護/福祉関係者、障害者本人と家族が受講している。


 


著書:


「運命じゃない!シーティングで変わる障害児の未来」(藤原書店刊)


「愛と友情のボストン車いすから起こす新しい風」(藤原書店刊)


「療育ハンドブック 47集 シーティングで変わる障害児者の未来」(一般社団法人 全国肢体不自由児父母の会連合会刊)


共著:


「在宅褥瘡対応マニュアル改訂第2版」(日本医事新報社刊)


「治りにくい褥瘡へのアプローチ、予防・治療・ケアのさまざまな試み」(照林社刊)


「在宅医療 多職種連携ハンドブック」(法研刊)


「これからの医療と介護のカタチ~超高齢社会を明るい未来にする10の提言~」(日本医療企画刊)


「在宅医療カレッジ~地域共生社会を支える多職種の学び21講」(医学書院刊) 等がある


ポータルサイト:「実践ケアの情報サイト・アルメディアWEB 『一歩進んだ』世界標準のシーティング正しい座位姿勢を知るところから始まるサポート」


 




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