【リハセンナレッジ】「脳梗塞リハビリセンター」における鍼灸の役割と効用

今回の回答者:脳梗塞リハビリセンター 鍼灸師 森田氏




脳卒中後遺症のさまざまな悩みを改善する「脳梗塞リハビリセンターの鍼灸」の特徴を詳しく解説します。




 


脳梗塞リハビリセンターにおける「鍼灸」 3つの役割


脳梗塞リハビリセンターにおける「鍼灸」の役割は大きく3つあります。



  1. 鍼灸による効用として、自律神経の調整、筋骨格系への直接的なアプローチ、筋緊張の調整ができる

  2. リハビリの前に鍼灸を受けていただくことで、リハビリしやすい身体づくりができる

  3. 鍼灸を継続することで、体調不良や怪我などのリスクを最小限にでき、よりよい状態でリハビリを継続できる




 


脳卒中後遺症の症状改善、再発予防へ アプローチする2つの視点<東洋医学と西洋医学


脳梗塞リハビリセンターでは、ご利用者様のお悩みや症状について鍼灸施術の時間に毎回しっかりとお話を伺い(問診)、視診、触診などを行ったうえで、不快な症状の改善、身体の機能改善・維持を目指した鍼灸施術を進めていきます。


お一人おひとりの心身の状態に合わせて「東洋医学的なアプローチ(内臓・自律神経)」と「西洋医学的なアプローチ(筋・骨格系)」を 組み合わせて施術を行い、鍼灸の直後に行う機能改善リハビリがしやすい身体に整えます。


よりよい状態で生活できるように、そして脳卒中の再発予防に対してもアプローチできるのが「脳梗塞リハビリセンターの鍼灸」の特徴です。


 


東洋医学的視点…「内臓や自律神経へのアプローチ」について


生活の質の低下につながる排泄障害、睡眠障害などの辛い症状を緩和・改善するために、東洋医学的な視点から「内臓・自律神経」に対するアプローチを行います。


①自律神経の問題を含んだ症状(排泄コントロール・睡眠障害など)にアプローチする


排泄コントロールや睡眠障害などに対して、投薬治療で取り組んでいるものの思うように改善せずお悩みの方が多くいらっしゃいます。鍼灸施術を加えることで、体質の改善によりホルモンバランスが整い、これらのコントロールが良くなる方が多く、不快な症状が軽減されて生活の質が向上すると、結果としてリハビリでの運動学習が進みやすくなります。


②養生(生活習慣に対するセルフケア)についての指導を行う


血液検査で正常値であれば問題ないと思われている方も多いようですが、東洋医学では「未病」という概念を大切にしており、数値に出ていなくても内臓が疲れて働きに影響が出ている場合があります。自律神経の乱れ、不眠、冷え、食欲不振などのさまざまな小さなサインを見逃してしまうことが将来の大きな病気の発症・再発リスクを高めることに繋がりかねません。


これらの観点から、養生についての指導、例えば冷え対策など生活習慣におけるセルフケアを行なうことで、再発のリスクやその他の病気の発症リスクを軽減することができます。


 


⇨西洋医学的視点…「筋骨格系へのアプローチ」について


脳卒中後の身体の運動学習においては、適切な感覚入力に対して身体が反応することが大切です。脳卒中罹患後はさまざまな理由で適切な感覚情報が脳へ届きにくい状態になっていますが、鍼灸施術によりそれらに変化をもたらすことができます。具体的には、西洋医学的視点から「筋骨格系」へ アプローチしていきます。


①非麻痺側の過努力(半球間抑制)


非麻痺側の緊張部位に対して鍼灸刺激を入れることで、緊張を抑制できる場合があります。もしくは、麻痺側への感覚入力を強調した施術を行なうことで、脳内で過剰な半球間抑制(※)の軽減を図り、麻痺側からの情報が受け取りやすい身体に導くことができます。


※半球間抑制:左右の脳がお互いを抑制し合って機能を調節するはたらきのこと。このため片側の脳の使い過ぎから反対側が正常に働かなくなることがある。


 


②筋骨格を通じて自律神経へ アプローチする


脳梗塞リハビリセンターのご利用者様の中で、過緊張の方は交感神経優位な状態で正常な刺激感覚を受け取りにくく、また副交感神経優位の方は低緊張の状態から筋出力を発揮しにくい方が多い傾向があります。鍼灸によりこれらの問題に対してアプローチすることで心身の状態が整い、学習が進みやすい状態へと導きます。


 


③痛みの軽減


リハビリの前に器質的な関節の障害や筋硬結などによる痛みを軽減し、学習効率が高まりやすい身体状況を作れます。痛みの強い方はリラックスしづらい状態になりやすいため、自律神経のバランスを整えることも大切になります。


 


④インナーマッスルのアンバランス改善


鍼灸施術により、四肢の効率よい動きを保障する体幹機能が発揮されやすい状態を作ることができます。インナーマッスルとは、お腹の深層の4つの筋肉(腹横筋・横隔膜・多裂筋・骨盤底筋群)が中心になりますが、脳卒中の後遺症の方は身体全体の歪みも影響してインナーマッスルのバランスが崩れやすくなります。インナーマッスルが働きづらいと、例えば同じ100m歩くだけでも燃費が大きく変わってくるのです。


 


⑤麻痺特有の姿勢によって生まれる筋硬結や可動域制限の改善


脳卒中後遺症のある方は、筋緊張や得られる感覚の偏りがある中で動作を行うため、一定の姿勢や一定の動きを行いがちです。そうした代償動作による二次的な問題を改善することもよりよい改善につながります。


鍼灸施術では、深部の筋まで刺激することができ、徒手で行うより素早く硬結を取り除けます。二次的な問題が解決されることで、リハビリを効率的に進めることができます。


 


⑥足裏の感覚麻痺に対するアプローチ 


「鍼灸とリハビリ 前編」でもお伝えした通り、足裏の幅や長さのイメージ改善や感覚障害改善のための足の裏へのケアとして、「お灸での温熱刺激」が有効と考えています。


足の裏の感覚が鈍ければ上手に重心を支えることができず、足底の不安定感から麻痺側全体に筋緊張が入ってしまいます。感覚が分かりにくいということは、脳の中でのイメージでも正しい足の幅や長さが確認できなくなります。この感覚の誤差は、足のあらゆる関節が動かしづらくなることや、痛みやしびれが発生する一因になるのです。


正常な感覚へと戻すためには、血流を促進させ、足にある感覚のセンサーを再び働きやすくしなければなりません。そこで、鍼灸施術の際、「八風」や「足裏三点」へのアプローチを行います。


 


⑦足の随意運動のための準備


脳卒中後遺症により「足首が上がらない」方に対しては「足三里」へのアプローチを行います。足首の可動域と筋肉の伸縮性を上げることで外から振り回す分回し歩行が改善し、体幹やお尻の筋肉が使いやすくなることで歩行が綺麗になります。


足関節自体の位置が分かりにくい方には、鍼刺激やお灸の温熱刺激などから関節の位置を確認することで脳のボディイメージの誤差を少なくしていきます。


足関節に浅く鍼をした状態で動かしてもらう手法もあり、その方の目標を達成するために必要な感覚の情報を分かりやすく伝えながら鍼灸施術でリハビリしやすい身体の状況をつくり、リハビリ後の運動療法で運動学習の定着へ繋げていきます。


 


■解説者プロフィール :


脳梗塞リハビリセンター 大宮 鍼灸師


森田遼介


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学歴:2012年 呉竹医療専門学校本科卒業


国家資格:2012年 はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師 免許取得


職歴:
2012年 はりきゅう小田原治療室、金子マッサージ 入社
鍼灸流派の一つである「経絡治療」で全国的に有名な先生のもと、昼間は勉強をさせていただきながら夜間は箱根の旅館を回りマッサージで生計を立てる。


2014年 株式会社メディカルハンド 入社
業界会社セリアジョブ代表取締役から "東京でマッサージNo.1" という紹介で入社。鍼灸・マッサージ共に指名No.1を3年間維持する。


2017年 ~現在 株式会社ワイズ入社後、脳梗塞リハビリセンター大宮に勤務
研修指導や東京パラリンピック出場を目指す反町公紀選手のボディケア担当をはじめ、多くのご利用者さまに鍼灸+リハビリの組み合わせで変化を感じていただけるよう邁進中。


 


監修協力:


■脳梗塞リハビリセンター 教育担当 鍼灸師 


石上邦男


学歴:
1994年 早稲田大学教育学部英語英文科卒業 
2009年 花田学園日本鍼灸理療専門学校卒業


国家資格:
2009年 はり師・きゅう師 免許取得


職歴:
2009年 横浜市青葉区にはりきゅう治療院sootheを開設


来院とデイサービスなどへの出張を併行して、脳卒中後遺症と様々な随伴症状の改善に従事。


2015年 脳梗塞リハビリセンター(株式会社ワイズ)入社


脳梗塞リハビリセンター研修センターにて鍼灸技術研修を担当。
利用者さまの快復に少しでも益する鍼灸師の育成とはり・きゅうの普及に格闘中。


脳梗塞リハビリセンター 鍼灸部門統括 鍼灸師 


宮澤勇希


学歴:
2016年 日本工学院八王子専門学校 医療カレッジ鍼灸科 卒業


国家資格:
2016年 はり師・きゅう師 免許取得


職歴:
2016年〜2019年 楊中医鍼灸院 就職


中医学を用いて皮膚疾患、婦人科疾患、精神疾患など幅広い疾患の治療を専門して体質改善を目指し治療、臨床経験を積む。研修生への研修講師を務める。
心理カウンセラー資格 取得


2019年〜現在  株式会社ワイズ入社後、脳梗塞リハビリセンター立川店勤


2021年 鍼灸部門統括 就任




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