【リハセンナレッジ】症例でみる 鍼灸×リハビリ 改善アプローチ

鍼灸師と理学療法士・作業療法士らが密に連携し、脳卒中の後遺症に悩むご利用者様に対してどのような改善アプローチを行っていくのか。脳梗塞リハビリセンター「60日間改善プログラム」ご利用者様の症例で詳しくご紹介していきます。


 




[症例]Aさん (60歳代 男性 / 脳出血 / 右片麻痺)


発症からの期間:およそ6か月


基礎疾患:高血圧


発症の自覚:毎晩ビール中ジョッキ5.6杯を飲んでいた


◆自覚症状:上下肢末梢の浮腫が強い、夜間頻尿(2,3回)、睡眠が浅く睡眠不足


◆リハビリの目標


<目標①> 装具なし歩行の改善 (麻痺側の荷重をしっかりさせたい・体重乗せた際にしびれがある)


<目標②> 上肢操作の改善 (麻痺手で電話を取れるようになりたい・モノを持てるようになりたい)


鍼灸では上記の自覚症状リハビリの目標の両方に対してアプローチしていきます。


 




 


◆自覚症状に対する改善アプローチ


まず、「自覚症状:上下肢末梢の浮腫、夜間頻尿(2,3回)、睡眠が浅い」 に対して症状が改善できるよう、鍼灸師が東洋医学に基づく視診・触診等を行い、施術方針を決定していく。


 


□視診・触診からわかる A様の身体の状態


・上熱下寒


顔面部が赤く、足が冷えている → 頭部に熱が昇り、足に冷えが偏る「上熱下寒」の状態


体の中の熱が顔や頭など上部に偏り過ぎて足は冷えてしまっている。睡眠の質が悪くなり疲労が抜けない状態であり、東洋医学では「肝」の機能低下と捉える。肝とは代謝や解毒という肝臓の機能だけでなく、睡眠など自律神経の働きにも深く関わり、睡眠の質が悪くなると運動記憶の学習や疲労に影響すると考えられる。


 


・脾胃の機能低下


舌の苔が白くて分厚く、中央が黄色い → 胃の粘膜が荒れていて、消化器が熱を持ち失調を起こしている状態


「脾胃」とはいわゆる消化器のことで、東洋医学では舌の表面に付く苔の厚さや色で胃腸の働きが正常かどうか判断する。舌の苔が白くて分厚いのは胃の粘膜が荒れていて、中央が黄色いのは消化器が熱を持っており失調を起こしているサイン。


また水分代謝にも関係しているので、浮腫も脾胃の機能低下によるものと考えられる。


 


・肺の機能低下


呼吸が浅くなり、呼吸量が落ちて全身に血液を送る力が落ちる → 血流が滞り、水分代謝と姿勢の崩れにつながる


呼吸が浅くなって、体幹深部にあるインナーマッスルが働きづらくなると体の軸が作れなくなり、姿勢が崩れると呼吸が浅くなる負の連鎖になっている。また東洋医学では「肺」は呼吸だけでなく水分代謝にも関係があると考えられており、自覚症状の夜間頻尿との関連が示唆される。



上記より肝や脾胃、肺にアプローチして、栄養の吸収と血流、姿勢と呼吸を改善するという施術方針が導き出される。
東洋医学では肝が強いと脾胃や肺を弱らせると考えるため、肝を落ち着かせて脾胃と肺の力を上げる施術を継続し、自律神経の調整を図っていく。


鍼灸師は、このように内臓機能の視点から東洋医学的な施術方針を決定し、更に運動・筋骨格的な考え方も含めてアプローチすることで、鍼灸の時間の次に介入する理学療法士・作業療法士との連携を図っていきます。


 


◆リハビリの目標に対する 鍼灸×リハビリ改善アプローチ


<目標①> 装具なし歩行の改善に対する 鍼灸×リハビリ改善アプローチ


●Aさんの特徴:


歩行中に床にかかとがついた時しびれる。しびれの強弱で足が床にどの程度ついているかを判断している。また目で見ることによって動きを捉えようとしているため、視覚以外の感覚情報が脳へ伝わりにくくなっている。結果的に足裏の感覚、手先・足先の感覚が悪くなっている。


 


●リハビリのアプローチ:


脳の損傷が大きいというより、中枢の不安定性が末梢の動き・感覚に影響していると考え、末梢つまり手先・足先からの感覚入力を大切に施術していく。


 


●鍼灸のアプローチ:


東洋医学的視点から浮腫み・血流を改善し、感覚入力しやすい状態を作っていく。また灸の熱感を利用して感覚の変化を確認していく。


 


<目標②>上肢の改善への 鍼灸×リハビリ改善アプローチ


●Aさんの特徴:


右上肢を操作する際、左荷重になり、腰部を固定し右上肢を持ち上げるような傾向がある。リハビリ中にどうすると操作しやすいかをご本人に感じてもらうと、『お腹、股関節が安定すると肘が伸びやすい』というコメントがあった。


 


●リハビリのアプローチ:


坐位で左側腹部~腰部にかけての固定があり、右上肢操作の際に顕著となり、上肢操作の自由度を奪う。この固さをとりながら、右下肢・体幹で支えやすくしていきたい。


 


●鍼灸の施術アプローチ:


インナーマッスルが働きづらいことで背中が丸まり頭部が前に出るような姿勢となっており、また体の軸が健側に偏ることで大胸筋・小胸筋・肩上部に過努力が働き、上腕骨・肩甲骨が前方に引かれ肩が前に出てしまい呼吸が浅くなってしまっているため、体幹部・股関節周囲にみられる固さを緩和し、インナーマッスルが働きやすいような状態を作っていく。


 




 


◆1クール終了時の改善点 と 今後の方針


このような鍼灸×リハビリ改善アプローチを継続したところ、60日間改善リハビリ1クール目の終了時には、睡眠中に起きる回数が1回で済む日が増え、まとめて6.5時間位眠れるようになってきたという自覚症状の改善が見られました。


また、むくみやインナーマッスルの固さが改善したことにより体幹の回旋動作(体のひねり)が大きくなってきたため、うつ伏せになるスピードが速くなるといった変化も得られました。


自律神経を安定させ、体幹の回旋動作をより滑らかに行えるように促して右上肢での操作獲得につなげていく方針で、鍼灸×リハビリ改善アプローチを継続していただいています。


 


[★ご注意]


鍼灸とリハビリでの改善アプローチ、改善の見込みの度合いはご利用者様の後遺症の状態によって変わります。ご不安に感じていること、また、お悩みやご質問などがございましたら、いつでも担当の鍼灸師・担当の理学療法士/作業療法士にご相談ください。


 




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