【リハセンナレッジ】装具とリハビリ
■なぜ下肢装具を使用するのか
<1> 生活期に下肢装具を使用するメリット
脳卒中後遺症の片麻痺により下肢の運動機能障害を有する方が、生活期の日常生活で下肢装具を使用するメリットを解説します。
■適切な下肢装具を使用することで、安全・安定した歩行が獲得できる
脳卒中の後遺症として身体に麻痺が残り、「立つと不安定になる」「かかとが床に着かない」「歩き出そうとした時に足先が下がり転びそうになる」など、思うように身体が動かなくなった方にとって、下肢装具は失った身体機能を補助し、その人に必要な動作を安全に遂行するための大切な補助器具です。身体の状態に合った適切な下肢装具を使用することで、転倒予防、姿勢保持、安定した歩行を獲得することが可能になります。
また、身体の状態に合った下肢装具の使用は、体の支持機能を低下させる「尖足」「内反」「反張膝(バックニー)」「拘縮」を予防する効果が認められています。
ご自身の身体の状態と生活環境に合った下肢装具を日常生活のなかで適切に使用するとともに定期的にリハビリを続けることで、身体の機能改善、ADLの向上、さらには、「より軽く、外見が目立ちにくい下肢装具への変更」、最終目標として「装具無しでの、自由な歩行の実現」へとつなげていくことができるといえます。
<2> 生活期に下肢装具を使用する際のチェックポイント
日常生活のなかで安全・安心に装具を使用していくためにも、ご使用中の下肢装具に関して気になる箇所があれば、まず「脳梗塞リハビリセンター」担当スタッフまたは装具をおつくりになった際のかかりつけに相談ください。必要に応じて、義肢装具製作会社での点検・修理の依頼を早めに行っていきましょう。
●正しく装着できていますか?
「脳梗塞リハビリセンター」の施設リハビリを受ける際は定期的に、「装具が正しく装着できているか」の確認を担当スタッフまでご相談ください。装着の仕方が良くないと歩きにくかったり、足を傷つけてしまうこともあります。
●装具は身体に適合していますか?
下肢装具は身体に適合していることが大切です。体重の増減や足首の動く範囲が変化する、また、身体機能の改善などにより、装具と身体が合わなくなってきます。無理に使用を続けると、足を傷つけたり、歩きにくくなり、転倒の危険性が高まります。「装具が適合しているか」「不具合がないか」の確認も、施設内リハビリや訪問リハビリを受ける際に担当スタッフまでご依頼ください。
●毎日、点検を行いましょう
下肢装具を安全に使用するために大切な 日々の点検とメンテナンスの方法 は、次の記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
★関連記事を見る: 下肢装具の点検とメンテナンス
■「下肢装具を変更する」タイミング
「より軽く、外見が目立ちにくい装具へと変えていきたい」と考えるご利用者様の希望に対して、脳梗塞リハビリセンターの理学療法士・作業療法士は装具の変更をどのように考え、指導とリハビリを行っているのかを解説します。装具を変更する(作り替え)時に役立つ情報も合わせてご紹介します。
<1> 下肢装具を変更する: 考え方
■ 身体機能の向上に合わせて「装具の素材」と「固定力」 を変更していく
生活期における下肢装具の変更(作り替え)は、装具を使用するご本人の「下肢装具の使用に対する感想・希望」や「現在の生活場面での下肢装具の使用状況」を丁寧にうかがったうえで、身体機能の評価とともに次の点を考察しながら方針を決定していきます。
●装具変更の検討ポイント:
現在の身体機能に最も適した装具を使用しているかどうか
装具を変更後も、日常生活において安全に動作を遂行することができるか
装具を変更することで、日常生活上のメリットが予想されるか
※メリットの例: 装具の着脱がしやすくなる/介助の負担が軽減できる/足の皮膚トラブルが軽減/心身ともに快適に過ごせる/装具の重さを感じにくくなる/できなかった動作ができるようになる、など
■代表的な短下肢道具の特徴と装具変更の考え方:
下肢装具(ここでは「短下肢装具」)は、素材と構造によって身体を補助する機能が異なります。脳卒中後遺症により身体に麻痺などの機能障害が残った方が生活期で使用する下肢装具のうち、代表的な装具のタイプと機能の特徴は次のとおりです。
たとえば、固定性・支持性ともに高い 「金属支柱」 タイプを使用しないと転倒を予防できないと考えられる方の場合は、当面は金属支柱装具を継続して使用していきますが、施設内リハビリとご自宅での自主トレーニングを続けるうちに体を支える筋肉の活動が大きくなり身体機能の改善がみられていけば、金属製よりも重量の軽い「プラスチック製」装具への変更を狙うことが可能 です。装具変更の方針が固まれば、変更後の装具使用を想定し、「装具を変えていくための身体リハビリ」を開始します。
プラスチック製装具のタイプは、足首の制動に着目すれば、「足首の動きが出にくく、麻痺足に体重を乗せるためには固定性が必要」であれば 「シューホーン」 を選択します。「足首の動きは少なめだけれども、日常生活においてトイレ動作、立ち座り、段差昇降など生活様式に合わせた動きが求められる」場合は、継手の機能により足関節に自由度を持たせた 「タマラック」 となります。
リハビリを続け、さらに筋肉の活動が大きくなり、足関節や股関節に安定感が高まってきたならば、 タマラックの継手を変更して装具による固定性を低くしていく ことができます。
プラスチック製装具のタイプの中でも、軽量かつ厚みが薄くコンパクトな 「オルトップ」 は、歩行時につま先が下がらないよう足首の支持性と安定感を求めたい方に適した装具です。「シューホーン」から、より軽量で、下腿部の高さが低いために外見上目立ちにくいタイプの装具を求める方に「オルトップ」が選択されることがあります。
このように、ご自身の生活と身体機能に合った装具を使用しながら適切なリハビリを継続していくことで、生活環境における下肢装具の必要性と役割を変えていくことは十分に可能 だといえます。
<2> 装具を変更する(作り替える):手続きについて
■生活期において「装具の作り替え」を行う際は、製作の申請から作り替えた装具を受け取るまでの諸手続きに時間を要します。「近い将来、装具を変えていきたい」とお考えの方は「脳梗塞リハビリセンター」の担当スタッフまで早めにご相談ください。
◆下肢装具を新しく作る/作り替える
下肢装具を作り替えるには主に3つの方法があります。ご自身のご利用条件に合わせていずれか方法を選び、 手続きをすすめます。
【1】身体障害者手帳を使い「補装具費支給制度」を利用して製作する
【2】医療保険で製作
【3】自費で製作
このうち、【1】の「補装具費支給制度」を利用して下肢装具を製作する場合は、申請から装具の受け取りまでに約2か月間程度の時間がかかります。同制度を利用する際はご注意ください。
■現在使用中の下肢装具を作り替える際の「手続きの流れ」は、以下の記事で詳しく解説しています。
★関連記事を見る:
■脳梗塞リハビリセンターで行う 「装具なし」歩行訓練
「自宅で、こんな時は装具を外して過ごしたい」、「屋外を装具なしで歩けるようになりたい」と考える利用者の希望に対して、脳梗塞リハビリセンターではどのようなリハビリを受けることができるのかを解説します。
<1> 脳梗塞リハビリセンターで出来る「装具なし歩行リハビリ」訓練の例
装具を外して歩行を行うためには「歩行時(動作時)に、安全性を確保できること」が条件 となります。
また、実動作の訓練以外にも必要な事は多く、立位時や動作時の麻痺側へのスムーズな体重移動とそこでの安定性を獲得することは欠かせません。
脳梗塞リハビリセンター「60日間改善プログラム<身体リハビリ>」や「アフターメンテナンス」をはじめとした施設内リハビリでは、担当スタッフがご利用者様の身体の状況を評価させていただいたうえで、ご本人の目標・ご希望・リハビリプランに応じて「装具を外した(装具なし)屋外・屋内を歩く訓練」を行っております。
◆例①: 屋外を「装具なし」で歩き「成功体験」を得る
施設周辺の道路を担当スタッフとともに歩き、不整地に合わせて歩行するための身体のバランス反応を養い、屋外歩行の成功体験を得ます。さらに、坂道や段差昇降も経験しながら、徐々に歩行距離を延長していき、持久力と耐久力をつけ、歩行の実用性を高めていきます。
「60日間改善プログラム」では60分間のリハビリの時間内に担当セラピストとともに、また、30分間の運動(トレーニング)の時間内にトレーナーとともに屋外歩行を行います。
◆例②: 「夜間のトイレ利用」を想定した 自宅内の装具なし歩行(移動)練習
たとえば、「ご自宅で、夜間、トイレに行く時は装具を外して歩いていきたい」という目標を実現するために、脳梗塞リハビリセンター施設内で動きのシミュレーションをし、「ご自宅で、ベッドから体を起こし ~ 装具なしでトイレまで歩き ~ トイレ動作 ~ ベッドに戻る」までの流れ等を、療法士の指導のもと安全に練習することができます。ご家族が安全に介助する方法もご指導します。
ご自宅内での歩行動作を練習したい方は、ご自宅内の写真、寝室から目的の場所への動線などを撮影した動画などをご用意いただけるとより適切なアドバイスができます。
★ 装具を外してご自宅内・ご自宅の周囲の歩道(屋外)を歩く訓練は、脳梗塞リハビリセンターの「訪問リハビリ」 でも行えます。ご希望の方は担当セラピストにご相談ください。
■ 「軽く、目立ちにくい装具へと変えたい」「装具を外して歩きたい」 ―― まず、あなたのご希望をお聞かせください!
「今使っている装具が重たいので、軽い装具へと変えたい」「下肢装具を外して歩きたい/歩けるようになりたい」「自宅内で、こんな時は装具を外したい」(例:夜間トイレに行く時、入浴の後、等)などの望み・目標をお持ちの方は、脳梗塞リハビリセンターの施設リハビリでのカウンセリング、鍼灸・リハビリ・運動の時間に担当スタッフへ、ご自身のご希望を積極的にお伝えください。
ご利用者様の実際の生活場面での下肢装具の使用状況をお聞かせいただき、ご利用者様のお身体の評価、歩行のシミュレーションを行ったうえで、お一人お一人の身体機能・生活環境に合った「より軽く、着脱がしやすく扱いやすい装具」への変更を目指し、必要な身体機能を高めるための最適なリハビリ計画や、「装具なし歩行(動作)」のために最適なリハビリ計画のご提案、身体の機能改善訓練や装具なし歩行訓練の実施、自主トレーニングのアドバイス等をさせていただきます。
■ [下肢装具とリハビリ] 解説者プロフィール
株式会社ワイズ
脳梗塞リハビリセンター事業部
脳梗塞リハビリセンター関西・東海ブロック長
理学療法士
村谷元気
職歴
2010年4月:下関リハビリテーション病院 入職(回復期病棟・外来勤務)
2015年3月:原宿リハビリテーション病院 転籍(回復期病棟勤務)
2016年11月:ベストリハ訪問看護ステーション 入職(訪問リハ) / 脳梗塞リハビリセンターに非常勤として関わる
2017年9月:脳梗塞リハビリセンター 入職
現在は脳梗塞リハビリセンター関西・東海ブロックのブロック長に従事
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