梅村聡のあの人に会いたい 早見泰弘 株式会社ワイズ 代表取締役会長兼CEO

患者の自律をサポートするには何が必要なのか、元参院議員・元厚生労働大臣政務官の梅村聡医師が、気になる人々を訪ねます。

梅村
「脳梗塞リハビリセンター」が10店舗目になったそうで、おめでとうございます。
早見
ありがとうございます。
梅村
どういうサービスを提供してらっしゃるのか、簡単に教えていただけますか。
早見
脳卒中後の後遺症を抱えた方に、介護保険を使わない完全自費のリハビリテーションを提供しています。店舗で、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、鍼灸師らがマンツーマンのトレーニングや施術を行います。
梅村
僕が参議院議員に初当選したのは2007年なんですが、前の年に医療で行うリハビリの日数に上限が設けられたんですね。少し前に長嶋茂雄さんが脳梗塞で倒れてリハビリしていたのもあって、みのもんたさんが朝の情報番組で、長嶋さんみたいな金持ちはいいけど、貧乏人はリハビリを受けられなくなるぞって、煽ったんです。選挙活動している時、有権者たちが、制度のことを詳しくは分からないんだけれど、とても怒ってたというのが印象に残ってます。議員になってから、上限を設けた理屈を厚生労働省に訊きましたら、その期間を超えると、平均で見るとあまり効果が出ないんだ、ということでした。人間の体だから、ビシっと切れるものではないんですけどね。
早見
個人差があります。
梅村
厚労省の役人の気持ちも分かるんです。どこかで線を引かなければならない。
早見
限られた予算の中ですからね。
梅村
なので、2年前に早見さんに初めてお会いして話を聴いた時に、出るべくして出てきたなと思いました。
早見
逆風が強い時に励ましていただいて、心強かったのを覚えています。
梅村
どういうきっかけで、お始めになったんですか。
早見
私は元々webマーケティング会社の経営に20年携わってきたんですが、5年前に椎間板ヘルニアで歩けなくなったんです。腰にメスを入れて病院のベッドの上で天井ばかり見ていると、気力がなくなってくるし、気持ちも落ち込みます。それが、リハビリして歩けるようになると共に気力も戻ってくるのを、身をもって体験しました。祖父母とかの様子を見ていて、高齢者も同じじゃないかなと思いました。インターネットの世界はやり切った感じもあったので、こういう世の中の役に立つ事業をやりたいなと考えて、14年2月にヘルスケア企業を作りました。ただ、保険外なんて尖ったことをやろうと最初から思ってたわけではなくて、まずやったのはリハビリ特化型デイサービスです。
梅村
介護保険を使うタイプですね。
早見
そうです。あまり高齢者ぽくないデザインで、器具やマシンを使った筋力トレーニングを入れて、ちゃんとデータを可視化するような、ちょっと遅れた業界に新しい風を吹き込めば面白いよねと、会社設立の翌月からサービスを開始しました。そうしたら、お客さんに脳卒中の方がとにかく多くて、しかも65歳未満の若い方が結構いらっしゃいました。
梅村
そうでしょうね。
早見
その中に私と同い年の女性がいて、とある有名雑誌の副編集長だったんです。ご自宅へ送迎する車の運転手をしていると、後ろの座席で、その女性が言うわけです。
梅村
えっ、早見さん自ら運転手をしていたんですか。
早見
ベンチャーで人がいませんから、社員総出で分担してやってました。
梅村
すみません、話の途中で。その女性がどうしたんですか。
早見
脳出血で要介護4、言語失調も麻痺もあるという方でしたけど、復職して、もう一度編集の仕事をしたい、だけどそのためにはキーボードを打てないといけない、そのためのリハビリを、お金を払ってでもやりたいんだ、ということでした。
梅村
なるほど。やりたいリハビリの種類がちょっと違うわけですね。
早見
そうです。デイサービスでやるのって、基本が高齢者向けで、歩行とか関節の可動域を広げようとか、そういう日常動作の集団訓練がメインです。個別訓練もありますけど10分とか15分で、その時間でキーボードを打てるようになるリハビリをできるかと言ったらできないわけです。その人以外にも、介護じゃなくて、リハビリを専門にやりたいという人は結構いました。で、なんかできないかと、半年後に完全自費のサービスを始めてみました。
梅村
今簡単に言われましたけれども、元々はご自分がリハビリを受ける側だったわけですよね。
早見
そうです入院して、初めてリハビリを受けて。
梅村
それが会社を作って、実際にやってみて、半年で個別化まで。
早見
なんでお客さんがこれだけ言っているのに、実現できないのかなという違和感があってですね。異業種から来たからこそで、介護のムラにじっくり入っていたら、できなかったと思います。
梅村
介護に限らず、業界の常識に絡め取られてダメになる、というパターンが多いんですよね。例えば面白いことを言っているのが、ホリエモンさんですよ。寿司屋は10年も修行しないでも3カ月ぐらい魚を切る練習をしたら店を出せるんだ、と。あれ10年間修行が必要ということにしないと、寿司業界で労働力の確保ができないんですよね。この世界も一緒で、保険とか従来の枠内じゃないと新しい事業はできないように思い込まされている厚労省の霊感商法的なところもあるんですよ。
早見
ルールがどうのとかじゃなくて、お金を払ってやりたいという人が目の前にこれだけいるんだったら、これをサービスにするのは起業家としてやるべきなんじゃないかな、と思いましたよね。
梅村
医療界は、ずっとそれには興味がなかったんですよ。例えば病院って、今でこそ食事がおいしくなってきてますけど、昔は1食260円とか決まってて、必要な栄養素が入ってれば、まずかろうとそれで良いという時代がありました。食事は楽しみじゃなくて治療の一環だから、と。
早見
栄養素だけあればいいと。
梅村
そうなんです。僕が研修医の時に関わった病院の夕食のメインディッシュが、竹輪の天ぷらだったことがありました。日本の患者さんもそれに文句を言わず、それで食欲がないですねってカルテに書かれて。
早見
ただでさえ食欲が落ちてるのに。
梅村
療ですよね、サービスじゃなくて。ところで、介護保険って、なんだかんだ言って半分は税金なわけですよ。若い世代の保険料もあって、ものすごく下駄を履かせてもらってるビジネスなんですね。
早見
はいそうです。
梅村
自費ではビジネスにならないんじゃないか、とは考えませんでしたか。
早見
集客できる自信はありました。僕はマーケティングを20年やってたんで、インターネットを使って探す人がいるだろうから、そういう層にはリーチできるようにって。クリニックもそうでしょうけれども、デイサービスは介護施設なんで広告規制で書けるものが決まってるんです。自費なら、その制限を取っ払えるので、集客はできるんじゃないかと思いました。後は、とにかくチャンスだという勝手な捉え方ですね。
梅村
なるほど。医療や介護の人たちは、そういうマーケティングが苦手ですよね。
早見
経営者としてリスクヘッジもしていて、6カ月やってダメだったら閉鎖してデイサービスにすぐ切り替えようと思ってました。デイサービスでも使える要件の物件で、内装もそんなお金かけるわけじゃありませんし。だからあんまりリスクはなかったんですよ。
梅村
ほー。
早見
ただ一号店の立地にはこだわりました。文京区の本郷、東大病院と順天堂大病院の間の医療銀座のど真ん中に開きました。アパレルブランドが表参道や銀座に出すように、ヘルスケアの新しいブランドならどこがいいかなって言った時、やっぱり日本で一番医療機関が集まっている所がいいんじゃないかと。
梅村
ブランディングでそれを選んだということですか。
早見
はい。私は神田生まれで、あの辺をよく知ってたんで。
梅村
素人的な質問なんですけれども、スポーツジムと同じカテゴリーの施設なんですか。
早見
まさにそれです。何度も役所へ行って、医療行為をしてないし侵襲性もない介護でもない、だから行政の目から見ても違法ではないと確認しました。
梅村
実は僕も考えたことがあるんですよ。僕は糖尿病が専門でね。糖尿病の人って、薬を出しても栄養指導を受けてもらっても、家へ帰ったら結局おにぎりとカップラーメンを食べるんですよ。で悪くなる。だったら、栄養士が見ている所で一日一食ぐらい野菜ふんだんな食事をできるような施設を作れないかなと画策してみて、調べていったら、保険医療機関ではない喫茶店か食堂にしないといけないことが分かったわけです。だから、これもスポーツジムじゃないかなと思いました。
早見
ご推察の通りです。
梅村
始めてどうでしたか。
早見
こういうのを待っていたという人が大勢いて、予想以上にお客さんが集まりました。茨城や埼玉や千葉から、本郷まで通ってくるようになったんです。まあ反響はネットだけでしたけれども。
梅村
近くの東大とか順天堂とかは?
早見
最初は行っても相手にされませんでした。でも面白いのはですね、目の前を医療従事者が大勢通ってたらしいんですね。で、最初のお客さんは、順天堂の看護師のお母さんでした。その後もドクターのお母さんとか、そういう人が最初に来だしたんですよ。
梅村
へー。
早見
変な言い方ですけれども、介護へ行ったら、もう良くならないみたいな意識の医療従事者っているんですよ。
梅村
いますいます。
早見
退院しても、ちゃんとリハビリをやったら改善できるって思ってるんで、息子さんとか娘さんが、たまたま医療銀座を通ってて、母親が脳卒中になっちゃったけど、地元の介護施設に入れるんじゃなくて、こういう所へと。
梅村
分かります。竹輪の天ぷらじゃなくて、すき焼きを食べさせてやりたいということですよね。
早見
今でも15%ぐらいが医師やのそのご家族で、一番多い属性です。
梅村
関西に浜学園っていう塾があったのを、ご存じですか。
早見
灘とか、あの辺の中学校に大勢入れてた塾ですよね。
梅村
私も通ってたんですけど、私の母親は公立小学校の教師でした。実は、浜学園に通ってる子の親の職業で一番多かったのが、公立小学校の教師なんです。つまり身内ほど、公立学校の限界を分かってるわけですよ。本当は一番通わせたらおかしいんですけどね。
早見
そういう意味で言うと、自費リハビリも最初は医療関係者からだったのが頷けますね。
梅村
社会的な位置づけは、浜学園と同じだなと思いました。
早見
そうですね。まさに塾です。よく言われます。小学校に行くんだけれども塾にも行く。だからウチは介護保険のデイと併用の人も多いです。
梅村
値段は、おいくらで。
早見
60日間が1コースで27万5千円です。民間なんで、30日間やった段階で満足いかなかったら全額返金することにしてますが、平均すると2・5回繰り返して卒業していかれます。
梅村
2・5回だと通しで1人70万円ぐらいですね。60日の間に来店が16回ですか。
早見
はい週2回2時間を16回、その他に宿題をやってもらいます。
梅村
宿題もあるんですか。これも患者さんにはすごい刺激になりますよね。医療にも、血圧手帳とか血糖測定の結果記録はありますが、あくまでも医療側が良くなったかどうか見るんであって、本人の努力が「主」にはなりにくいです。それをやったって診療報酬が付かないんですよね。いつも医療側が、血糖値が高いですね血圧が高いですねと言ってるけれど、本当に教えてあげないといけないのは、何をしたから高くなったのかということ、薬の飲み忘れなのか運動不足なのかアルコールの飲み過ぎなのか、そうやって自分で気づいてもらうことですよ。
早見
はい。ウチは加点主義なんで。病院から来た人たちは皆、リハビリがマイナスをゼロにする世界だと思ってたんですけど、そうじゃなくて、できることを増やしていく楽しみがあるんですよね。80%以上の人が、少なくとも最初に来た時より改善して満足しているというのを、この間の脳卒中学会で発表したところです。
梅村
反発を食らったことはないんですか。
早見
一部の業界の方から、医師がいない環境下でリハビリをしてよいのかといったご指摘などをいただいたことはあります。お客さま以外は否定的な意見が多かった気がします。
梅村
例えば、脳梗塞後の再出血とか再梗塞のリスクがある。その時に医療従事者がいない所でリスク管理はどうするんだみたいなこと、医者から言われませんでしたか。
早見
ありました。ただ、それを言うなら、デイサービスにも言わないと不公平です。例えば当社のデイサービスの場合、脳梗塞の人が大体4割来ていて、医者はもちろん、理学療法士も作業療法士もいない形で運営しています。デイサービスでは、そのような施設が多いのが現状です。国内に6万施設もあるデイサービスも同様のリスクはあるのですから、脳梗塞リハビリセンターでは全員が救命訓練を受けるとかAEDを全店舗に置くとか、提携医療機関にすぐ電話するとか、オペレーションで解決しますという事を言っていたら、それはそうだね、と。
梅村
なるほど。
早見
今もう利用者が累計で2000人を超えたんですね。さっきネットで集めたと言ったんですけれども、去年ぐらいから病院の紹介がめちゃくちゃ増えてきていて、ネット比率が6割まで下がってます。2016年に厚労省と経産省、農水省が保険外サービス活用ガイドブックを作った辺りから風向きが変わりだして、直近で言うと、内閣官房の未来投資会議の有識者として呼んでいただいて、その議事録は首相官邸のホームページにも載ってます。
梅村
まあ注目ですよね。
早見
3月の未来投資会議では、参加されていた方々からも、医師がいなくてどうのこうのとは全く言われなくて、各省庁の審議官の方たちにも、これはいいサービスだと言っていただけました。国として応援してくれる分野になったということかなと思っています。時期を同じくして職能団体である理学療法士会からも講演依頼をいただけるようになりました。
梅村
元々、医療保険も介護保険もビジネスという面は弱いんですよね。医療保険が出来たきっかけは、労働者に対する福祉なんですよ。昔、会社側は労働組合が強くなり過ぎることをものすごく警戒したわけです。介護保険も、いわゆるいい嫁がいなくても歳をとれる、これを賢そうな言葉で言えば「介護の社会化」になります。要するに医療保険も介護保険も、患者さんのニーズを完璧に満たすことは主眼に置いてないわけです。
早見
だから竹輪の天ぷらになるわけですね。
梅村
非常事態だから、「ニーズ」よりもまず福祉的な対応を優先するという。
早見
そういう生い立ちの文化があるわけですね。
梅村
そうそう。別に誰が悪いわけでもないです。医療側が、サービスはしないようにしようと思ってるわけではないし。ただ個人の自己決定というのが日本はすごく遅いんですよ。
早見
外の世界では、自己決定が普通ですよね。
梅村
ビジネスマンとして素直に発想されたんだなと思いますね。これから、もっと大きく展開されるつもりですか。
早見
やっていきたいです。あとビジネスの可能性として言うと、たまたまリハビリの分野は、先人の医療従事者たちが築いたブランドがあって、海外からも元々すごいと思われていて、今でも月に3人から5人は口コミで中国から来てるんで、世界に通用する可能性があると思っています。
梅村
今日の話を聞いていて、一番のキーワードはね、どれだけドキドキできるか、モチベーションが上がるかだと思いましたね。今日も楽しかったな、という。病気を治したり助かったり、せっかくすごいドラマがあるのに、今はエンターテインメントじゃないんです。今までは、マジメなシンミリした業界で、我慢もしなければいけないし、竹輪の天ぷらも食わなければいけない、そういうものだと思い込んでやってきたけれど、本当は究極のエンターテインメントなんだという、その発想転換のモデルとしてとても分かりやすいな、と思いました。引き続き頑張って、世界へ羽ばたいてください。
早見
ありがとうございます。

経歴

はやみ・やすひろ●1972年東京都生まれ。1995年法政大学経済学部卒業。同年(株)イニット設立、代表取締役社長。当時のweb制作業界トップ3まで成長させ、2004年にトランスコスモス(株)へ営業権譲渡。同社執行役員、常務執行役員を歴任。国内上場子会社(Jストリーム、ダブルクリック)取締役、海外子会社取締役、董事長など多数兼務。2014年2月より現職。

※この対談は、ロハス・メディカルvol.147(2018年夏号)に掲載されたものです。
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