【リハセンナレッジ】お悩みの症状別 鍼灸アプローチ

今回の回答者:脳梗塞リハビリセンター 鍼灸師 森田氏




脳血管疾患後遺症のお悩みTOP5 に対する「脳梗塞リハビリセンター」流の鍼灸治療の考え方と代表的なアプローチ、治療効果と改善の例をご紹介します。


脳梗塞リハビリセンターでは、ご利用者様のお悩みや症状について毎回の鍼灸治療の時間でしっかりとお話を伺い(問診)、視診、触診等を行ったうえで、不快な症状の改善、身体の機能改善を目指した鍼灸治療をすすめていきます。

ご不安に感じていること、また、お悩みやご質問などがございましたら、いつでもご相談ください。




 


【お悩み①:手の指や足の指が握りこんでしまう (痙縮)】


鍼灸アプローチの例 <1>:


体幹が弱くなって体の軸に歪みが発生することで麻痺側に力が入る痙縮(けいしゅく)が起こります。軸の歪みは体や内臓の働きがアンバランスになることでも発生するため、筋肉や内臓に対して血流改善をしていくアプローチ太衝(たいしょう)に対して行います。


太衝(たいしょう)


 4 太衝


鍼灸アプローチの例<2> :


自律神経の乱れから活動・興奮する作用が強くなっていることで筋肉に緊張が強くなります。自律神経の乱れは内臓の調子を整えることで再び正常に働いてくれますので、全身あらゆるところにある内臓に効くツボにアプローチをかけていきます。


脳梗塞リハビリセンターのご利用者様の症状にも多い、不眠(寝つきが悪い、途中で起きる、眠りが浅いなど)や頻尿、肩こり、むくみ、頭痛、冷え、下痢、便秘、イライラ、体が重いなどの症状は、「自律神経が乱れているよ」という体からのサインです。このサインを放っておくと、再発や他の大きな病気にかかるリスクが高くなりますので定期的なメンテナンスが必要です。


脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)の罹患経験がある方は、この小さな“体からのサイン”の感受性が鈍くなっていることも特徴です。その場合は鍼灸師が問診・触診(触る診断)・望診(肌の色などを見る診断)・聞診(呼吸音などを聞く診断)をさせていただき問題の部分を早期に見つけます。


このように、鍼灸治療をはじめとした 「東洋医学」は、将来起こりうる病気や怪我を事前に予防する「未病(みびょう)」に対するアプローチも得意としている分野です。


改善した方が実感すること(例):


・手指の握り込みが軽くなり、手のひらに爪の跡がつかなくなった。


・足の内反が軽減して、麻痺側の足で前よりも体重を乗せられるようになった。


 




【お悩み②:足首が上がらない(つま先が上がらない】


鍼灸アプローチの例 <1>:


足の背屈を促すツボ「足三里」 へのアプローチを行います。脛の筋肉である「前脛骨筋」の働きを血流改善や電気刺激から筋肉の伸縮性を促します。


足三里(あしさんり)


Image2


 


鍼灸アプローチの例 <2>:


足の付け根から膝裏、ふくらはぎ、アキレス腱が縮まることで踵を引っ張り、足の関節が動きづらい要素もあります。足の付け根はお尻の筋肉や腰の筋肉、背中や首まで繋がりが強いため、鍼灸では全身に対してアプローチをしていきます。


 


鍼灸アプローチの例 <3>:


鍼刺激やお灸の温熱刺激などから関節の位置を確認することで脳のボディイメージの誤差を少なくしていきます。


鍼灸治療で改善が期待できること:


足首の可動域と筋肉の伸縮性を上げることで外から振り回す分回し歩行が改善し、体幹やお尻の筋肉が使いやすくなることで歩行が綺麗になります。


改善した方が実感すること(例):


・歩行や階段の昇降スピードが早くなった。


 




【お悩み➂:肩が内側に巻き込んでしまう / 肩が痛い】


脳卒中の後遺症では、お腹の深層の4つの筋肉であるインナーマッスル(腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋群)が使いづらくなります。 この筋肉の働きが落ちると呼吸量が浅くなり、背中は丸くなって頭が前に出る姿勢になります。反対に呼吸量が落ちてインナーマッスルが働きづらくなることもあるので、鍼灸では内臓や筋肉のバランスに対するアプローチをしていきます。


腕を上に挙げる動作をするときには、肩の外側にある三角筋が働くことで真っすぐと挙げられますが、脳卒中の後遺症ではこの三角筋が使いづらくなるため、胸(大胸筋・小胸筋)と肩上部で頑張ろうとします。 頑張ることを継続すると肩が内側に内旋し、円背の要素をつくり二次的にも筋肉が硬くなってしまうので、胸部や肩上部の緊張や硬さを取るアプローチを行います。


鍼灸アプローチの例 <1>:


硬くなった胸(小胸筋や大胸筋)に直接アプローチをかけるだけでなく、筋膜で繋がりの強い足の内側の深くにある「後脛骨筋(こうけいこつきん)」や 首にある「斜角筋(しゃかくきん)」の緊張を緩める、局所と遠位からのアプローチをすることで、肩が内に巻き込んでいる状態を解消していきます。


 


鍼灸アプローチの例 <2>:


インナーマッスルは胃腸などの内臓の調子やメンタル面の乱れからも崩れます。ツボを使って内臓の働きを促し、ホルモン作用などからメンタル面も整えつつ、インナーマッスルの働きを助けるアプローチもしていきます。


鍼灸治療で改善が期待できること:


胸を張る姿勢がとりやすくなることで呼吸量が上がり、インナーマッスルが働きやすくなるほか、歩行中などに前を向きやすくなります。


姿勢が改善して頭の位置が前方を向きやすくなると、後頭部や顎、首の筋緊張がおさまり、嚥下障害の改善も期待できます。


また、首の緊張は舌の動きに関係する舌骨の動きも悪くさせるため、首の歪みを改善させながら言語療法と併用することも大切であり、言語の改善が期待できます。


改善した方が実感すること(例):


・歩行中下に向いていた胸が、前に向くようになった。


・呼吸量が改善し腹から力が入りやすくなったため、声量が上がった。


 




【お悩み④:麻痺側のしびれが強い】


しびれの原因はさまざまです。


鍼灸アプローチの例 <1>:


脳内には自分のボディイメージがあります。温度感覚や触れる感覚にエラーが生じると、脳内で本来の正しいイメージと実際の感覚のイメージに誤差が生じてしびれになる場合があるのです。


鍼灸では、「八風」や「足裏三点」 といったツボを使いながら血行を改善し、感覚のセンサーを正常に働かせていくアプローチをします。


その刺激に加えて、直ぐにリハビリでも運動刺激や感覚刺激をいれていくことでボディイメージとの誤差が小さくなっていきます。


■八風(はちふう)


Image3 (2)


■足裏三点


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「脳梗塞リハビリセンター」でのリハビリは、まず鍼灸治療で感覚情報を受け取りやすい身体状況をつくり、その後のリハビリの時間で理学療法士・作業療法士が運動刺激や感覚刺激を入れていき、感覚障害をはじめとした脳卒中後遺症の症状改善を目指していきます。鍼灸とリハビリがタッグを組んだ脳卒中後遺症の機能改善リハビリプログラムとアプローチは「脳梗塞リハビリセンター」ならではの特徴です。


 


鍼灸アプローチの例 <2>:


精神的なアンバランスから「しびれ」になることもあります。 例えば、精神的なアンバランスから自律神経が乱れて活動・興奮作用のある交感神経が活発になり過ぎると神経に熱を帯びます。その熱のサインが「しびれ」として出る場合もあるため、鍼灸では内臓の調整をしながら自律神経を整えていきます。


また、「しびれ」から精神が乱れ、精神が乱れることで更にしびれが悪化する負の連鎖をくい止めるためにも 「心」と「体」両方へのアプローチが大切です。


 


鍼灸アプローチの例 <3>:


姿勢のアンバランスから首や腰から手足に出る神経の圧迫からもしびれが発生する場合もあります。深い筋肉が神経を圧迫しているため、深い部分にアプローチがかけやすい鍼を使って直接深部の筋肉を緩めていきます。


改善した方が実感すること(例):


・しびれのことを一日中考えてしまうことから精神的にも辛い状態が続き、不眠にも苦しんでいたが、改善したことで精神と睡眠の質が安定し、気持ちが再び前向きになった。


・しびれが以前と比べて落ち着き、精神的に楽になると、頭がクリアになって体の動きも良くなった。


 




【お悩み⑤:麻痺側の感覚が鈍い】


足や手の感覚が鈍い、痛みを感じにくい、温感や冷感がわかりにくい、など「感覚障害」 に対する鍼灸アプローチは、前述の【お悩み ④: 麻痺側のしびれが強い】 での 鍼灸アプローチ<1>と同様 に 「八風」や「足裏三点」などを使いながら血行を改善し、感覚のセンサーを正常に働かせていくアプローチをします。


鍼灸アプローチの例 :


足底の感覚が鈍ければ血流を改善しつつ、お灸の温熱刺激などを継続すると、個人差がありますが、少しずつ改善していくご利用者様もいらっしゃいます。血流に関しては足底だけに刺激を加えても改善しにくく、足の付け根などから全体的に診ていきながら、同時に血管の正常なリズムにもどす自律神経のアプローチもしていくことで改善していきます。


改善した方が実感すること(例):


・怖くて下を向いて歩いていたのが、足底の感覚が戻ってきたことで、顔を上げて前を向いて歩けるようになった。


 


 


■解説者プロフィール :


脳梗塞リハビリセンター 大宮 鍼灸師


森田遼介


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学歴:2012年 呉竹医療専門学校本科卒業


国家資格:2012年 はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師 免許取得


職歴:
2012年 はりきゅう小田原治療室、金子マッサージ 入社
鍼灸流派の一つである「経絡治療」で全国的に有名な先生のもと、昼間は勉強をさせていただきながら夜間は箱根の旅館を回りマッサージで生計を立てる。


2014年 株式会社メディカルハンド 入社
業界会社セリアジョブ代表取締役から "東京でマッサージNo.1" という紹介で入社。鍼灸・マッサージ共に指名No.1を3年間維持する。


2017年 ~現在 株式会社ワイズ入社後、脳梗塞リハビリセンター大宮に勤務
研修指導や東京パラリンピック出場を目指す反町公紀選手のボディケア担当をはじめ、多くのご利用者さまに鍼灸+リハビリの組み合わせで変化を感じていただけるよう邁進中。


 


監修協力:


■脳梗塞リハビリセンター 教育担当 鍼灸師 


石上邦男


学歴:
1994年 早稲田大学教育学部英語英文科卒業 
2009年 花田学園日本鍼灸理療専門学校卒業


国家資格:
2009年 はり師・きゅう師 免許取得


職歴:
2009年 横浜市青葉区にはりきゅう治療院sootheを開設


来院とデイサービスなどへの出張を併行して、脳卒中後遺症と様々な随伴症状の改善に従事。


2015年 脳梗塞リハビリセンター(株式会社ワイズ)入社


脳梗塞リハビリセンター研修センターにて鍼灸技術研修を担当。
利用者さまの快復に少しでも益する鍼灸師の育成とはり・きゅうの普及に格闘中。


脳梗塞リハビリセンター 鍼灸部門統括 鍼灸師 


宮澤勇希


学歴:
2016年 日本工学院八王子専門学校 医療カレッジ鍼灸科 卒業


国家資格:
2016年 はり師・きゅう師 免許取得


職歴:
2016年〜2019年 楊中医鍼灸院 就職


中医学を用いて皮膚疾患、婦人科疾患、精神疾患など幅広い疾患の治療を専門して体質改善を目指し治療、臨床経験を積む。研修生への研修講師を務める。
心理カウンセラー資格 取得


2019年〜現在  株式会社ワイズ入社後、脳梗塞リハビリセンター立川店勤


2021年 鍼灸部門統括 就任




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